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仙台高等裁判所秋田支部 昭和25年(を)62号 判決 1950年6月26日

被告人

渋谷一五郞

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人藤盛亮三控訴趣意第一点について。

(イ)  仮出獄の期間中に行つた犯行について、累犯加重の処遇をなしえないことは洵に所論のとおりであるが、被告人に対する前科調書の記載並びに被告人の原審公判廷の供述によると、原判示の前科の懲役刑は昭和二十三年一月六日確定し、その後大赦も減刑も刑の執行の免除をもうけず昭和二十三年九月十日仮出獄を許され、その後これが処分を取消さるることなく経過し、昭和二十四年四月九日に至りその刑期を満了したものであることが認められる。(弁護人は刑期満了の日は昭和二十四年四月十七日であるというがその誤れることは暦数上明白である)しからば、原判示十一の犯行は刑法第五十六条にいわゆるその執行を終つた後の犯行である以上は、たとえその余の犯行が仮出獄中の犯行であるにしても全犯行を常習特殊竊盗の一罪として処断すべきものである以上、これに累犯の加重をなしても違法ではないから論旨は理由がない。

同第二点について。

(ロ)  しかし、原判決は被告人は常習として、夜間人の住居または人の看守する建造物に侵入して他人の財物を竊取した事実、即ち昭和五年法律第九号盗犯等の防止及処分に関する法律第二条にいわゆる常習として夜間人の住居又は人の看守する建造物に侵入して刑法第二百三十五条の罪を犯し、その竊盗を以て論ずべきときに該当する事実を認定しているのであつて、かかる場合には、刑法第二百三十五条を適用することなく、単に前示法律第二条第四号のみを適用してもその処断の根拠を知り得るから多少説明の足りない恨みはあるとしても擬律錯誤の違法ありとはいえない。論旨援用の大審院の判決例は本件のような場合に刑法第百三十条を適用することの違法を説明したにとどまり刑法第二百三十五条を適用すべき旨を説示したものでないから所論は理由がない。

(弁護人藤盛亮三の控訴趣意)

第一点 原判決は法令の適用に誤があるのであります原判決の法令の適用を見ますると「………被告人には前記の前科があるので刑法第五十六条第五十七条第十四条の規定に従つて法定の加重をなした刑期範囲内に於て被告人を懲役五年に処し………」とある而してその「前記の前科」なるものを見ますると「被告人は昭和二十二年十二月二十六日仙台高等裁判所に於て竊盗罪に依り懲役一年六月(但し法定未決勾留日数八十七日算入)に処せられ同判決は翌昭和二十三年一月六日確定し被告人は即日服罪し同年九月十日仮釈放せられその後之を取消さるることなくして刑期の残期間を経過したものであつてこの事実は被告人の当公廷に於ける供述並に前科調書によつて之を認める」とあります、原判決説示の如く被告人の前科にして果して斯様な内容をもつものであるとすればその前科の刑期の最終日は昭和二十四年四月十七日となりました。然るに被告人の本被告事件の犯行は原判決の事実摘示によると昭和二十三年十一月十三日頃から始まり翌昭和二十四年四月十日頃に終つているのであるから前科についての仮出獄中になされたものであることが明らかであります。而して仮出獄なるものは之を許されたとしても刑法第五十六条に規定する懲役刑の執行を終つた者又は執行の免除あつた者と看做されるものでないことは勿論であるから本被告事件の犯行を目して刑法第五十六条第一項に規定する再犯であると断ずるは明らかに誤である再犯加重は懲役に処せられたる者がその執行を終り又は執行の免除ありたる日より五年内に更に罪を犯し有期懲役に処せられる場合に限りなすべきものであつて本件被告人の如く懲役に処せられたが未だその執行を終らず又執行の免除も得ないものには適用すべきでないことは説明を要しない。然るに原判決は本被告人の犯行に刑法第五十六条第五十七条第十四条を適用したのであるこれ明らかに法令の適用を誤つたものであつて併もその誤が判決に影響を及ぼすこと明白であるから破棄を免かれないと思料致します。

第二点 原判決はその理由及び法令の適用の項における説示によつて明らかである通り「被告人は常習としていづれも夜間に(中略)各竊取したものである」と被告人の所為を判示した後「被告人の判示所為は盗犯等の防止及処分に関する法律第二条第四号に該当する」と法令の適用を示しているが刑法第二百三十五条の規定については全く言及していないのであります。然れども盗犯等の防止及処分に関する法律第二条第四号を適用するにはその前提としてその適用を受ける者が刑法第二百三十五条(中略)の罪を犯した者でなければならないのであるから所謂常習特殊竊盗に対する法令の適用に当りては右法律第二条第四号のみならず更に刑法第二百三十五条の規定の適用をも示さなければならない筈である然るに前述の如く原判決はこの規定の適用を全然示していないのであります畢竟原判決はこの点においても法令の適用を誤つたものであつて到底破棄を免かれないと思料致します(昭和七年(れ)第八号同年三月十八日大審院第四刑事部判決御参照)

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